*卒論の導入と考察に使うギャンブル先行研究をメモする。
*チャッピーさんの提案したポジティブ導入案はこちら。
【心理的側面】
de Vries 2008:ポジティブな気分が意思決定を改善 – オランダのde Vriesらの研究では、アイオワギャンブル課題(IGT)を用いて気分が意思決定に与える影響を検討しました。実験の結果、ポジティブな気分状態ではネガティブな気分状態よりも初期段階で有利なデッキを選択する傾向が強まり、意思決定成績が向上しました。これはポジティブ気分が「直感(gut feeling)」に基づく判断を促し、ギャンブル課題の初期学習を助けるためと考察されていますcambridge.orgcambridge.org。
Goldstein 2016:Goldsteinら(2016)は,若年成人ギャンブラーにおいて,気分調整(mood regulation)動機がギャンブル行動に強く関係することを示した。特にオンラインギャンブラーでは,ネガティブ気分や退屈感の対処としてギャンブルが行われやすく,一方で非オンラインギャンブルはポジティブ気分や社交的快楽を高める手段として行われる傾向があった。pmc.ncbi.nlm.nih.govresearchgate.net。
Parke 2019:ギャンブル参加が満たす心理的ニーズ
Parkeら(2019)は,イギリス・スウェーデン・オランダのオンラインギャンブラー1,416名を対象に,ギャンブルが満たす心理的欲求を分析した。回答者は,ギャンブルによって**「挑戦と熟達(challenge & mastery)」「自己肯定(self-affirmation)」「リスクと興奮(risk & excitement)」「気晴らし・現実逃避(detachment)」「社会的つながり(affiliation)」の五つの心理的ニーズがある程度満たされると報告した。
特にポーカー参加者は挑戦・自己肯定・社会的つながりの満足度が高く,スロット遊技者は現実逃避・リラックス(detachment)のニーズが高かった。さらに,スポーツベッティングおよびポーカー参加者はスロット遊技者より幸福度が高い傾向を示したが,ストレス水準はギャンブル形式による差はみられなかった。
これらの結果から,ギャンブルは適度に行われる場合,ストレス解消・刺激提供・社会的交流などの肯定的な心理的機能を果たす可能性**が示唆される。
出典:Parke, J., Williams, R. J., & Schofield, P. (2019). Exploring psychological need satisfaction from gambling participation and the moderating influence of game preferences. International Gambling Studies, 19(3), 508–531. https://doi.org/10.1080/14459795.2019.1633381
Dixon 2010:スロットマシン遊技がもたらす高揚感と幸福感 – Dixonらは施設入所高齢者3名を対象に、模擬スロットマシン遊技中の幸福度を客観指標で測定しました。その結果、3名全員でギャンブル遊技中の「幸福」行動指標の出現率がベースライン時より明らかに増加し、遊技によって一時的に幸福感が高まることが確認されましたpubmed.ncbi.nlm.nih.gov。この効果は介入直後のみで30分後にはベースラインに戻りましたが、スロットマシン遊技が高齢者に即時的なポジティブ情動をもたらすことを示す結果ですpubmed.ncbi.nlm.nih.gov。
APA形式の出典は次のとおりです:
Dixon, M. R., Nastally, B. L., Jackson, J. E., & Habib, R. (2010). The effect of simulated gambling on the happiness of nursing home residents. Journal of Applied Behavior Analysis, 43(3), 531–535. https://doi.org/10.1901/jaba.2010.43-531
Blackman 2019:適度なギャンブルと主観的幸福度 – オーストラリアのBlackmanらは成人約1,500名を調査し、ギャンブル頻度と主観的幸福度の関係を分析しました。その結果、問題ギャンブルでない人ではギャンブル参加頻度が高いほど生活満足度などウェルビーイング指標がむしろ高いことが分かりましたgreo.ca。特に問題を抱えないレクリエーション層のギャンブラーはギャンブル未経験者より幸福度が有意に高くgreo.ca、一方でギャンブル問題が深刻になるにつれて幸福度は低下しましたgreo.ca。適度なギャンブル行動それ自体は生活の質や幸福感を向上させ得ることを示す知見です。
Kim,W 2020:中国系高齢移民における社交的ギャンブルの効用 – Kimの民族誌的研究では、米国在住の中国系高齢者が仲間とマージャンやトランプ賭博を行うことで、孤独感の緩和や文化的なつながりの維持に役立てていることが報告されました。低賭け金の「健康的麻雀」は高齢移民にとって貴重な社交機会と認知刺激の場となっており、適度なギャンブルがコミュニティへの参加意識や心理的安定感を高めるポジティブな側面が描写されています。
cakar,M 2025:レクリエーショナルゲーム介入による幸福感向上 – トルコのCakarらは、高齢者施設の入居者を対象にビンゴを含むレクリエーションゲーム介入を8週間実施しました。介入群では対照群と比べ、幸福度と人生満足度が大幅に上昇しbmcpsychology.biomedcentral.com、孤独感(情緒的・社会的孤独)も有意に減少しましたbmcpsychology.biomedcentral.com。身体症状(体調不良の訴え)には大きな変化がありませんでしたが、これらの結果からゲーム活動による高齢者の心理的福利の向上効果が示唆されます。
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ビンゴや語彙ゲームなどの軽度なレクリエーション活動でも,幸福感・人生満足度の改善および孤独感の緩和が見られる。
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ゲーム活動が社会的交流と心理的活性化を促すことで,高齢者の精神的健康に寄与する可能性を示唆。
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身体的症状には直接的効果は少ないが,心理的ウェルビーイングの向上効果は明確。
Cheng,G 2021:高齢者の遊技活動と精神的安定 – 中国の縦断研究では、趣味として麻雀やチェスなどグループ遊戯に参加する高齢者は、非参加者より認知機能が高く抑うつ傾向が低いことが示されていますbmcgeriatr.biomedcentral.com。例えばある疫学調査では、麻雀を含むグループ活動に参加していた高齢者は認知テスト成績が良好で、うつリスクも低減していました。このように社交的ゲーム参加が高齢者のメンタルヘルスと認知機能の双方に保護的効果を持つ可能性があります。
Xu,S 2019:適度な賭け事とストレス解消効果 – 賭け事が日常のストレスや退屈を紛らわすコーピング手段となり得ることも指摘されています。例えばある研究では、ギャンブル参加者の多くが「気分転換」「現実逃避」を主目的に挙げておりgreo.ca、スロットマシン遊技者はリラックス効果を求めている傾向が示唆されましたgreo.ca。適度なギャンブル行為による興奮や集中は日常生活からの一時的な解放感を与え、心理的ストレスを軽減するポジティブ効果を持ちうると考えられます。
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スロットなどのレクリエーション的ギャンブルは,現実逃避・リラックス・退屈解消といった“気分転換機能”を持つ。
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一方,ポーカーやスポーツベッティングのような競技的ギャンブルは,挑戦・達成・社会的自己実現の場となっている。
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適度な範囲のギャンブル参加は,心理的ストレス軽減やポジティブ情動の喚起に寄与する可能性が示唆される。
【身体的側面ー自律神経など】
Dai 2025:カード・麻雀遊技と死亡リスク低下 – Daiらの中国高齢者約3万人を対象としたコホート研究では、ほぼ毎日トランプや麻雀を楽しむ人は、全く遊ばない人に比べ死亡リスクが12%低下し、週1回程度でも有意なリスク低減がみられました(HR≈0.84)
bmcgeriatr.biomedcentral.com
。追跡期間中一貫して遊技を続けた高齢者では死亡リスクが最も低く(HR=0.67)
bmcgeriatr.biomedcentral.com
、特に80歳以上で保護効果が顕著でした。レジャーとしてのカード・麻雀遊技が高齢者の寿命や健康維持に寄与する可能性が示された重要な疫学的知見です
Dai, X., et al. (2025). Playing cards/mahjong and risk of all-cause mortality among older Chinese adults: Evidence from the Chinese Longitudinal Healthy Longevity Survey. BMC Geriatrics, 25(1).
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Desai 2004:高齢者のレクリエーション・ギャンブルと健康 – Desaiらの全米調査研究(Yale大学)では、過去1年に娯楽としてギャンブルを楽しんだ65歳以上高齢者は、非ギャンブル高齢者に比べて主観的健康状態が良好で、うつ症状が少なく、社会的支援ネットワークも充実していることが明らかになりましたpmc.ncbi.nlm.nih.gov。著者らは「適度なギャンブル活動に伴う身体的活動、社会交流、認知的刺激が健康な老化に寄与している可能性がある」と述べていますnews.yale.edu。ただし高齢者は依存に陥らない範囲で楽しむことが重要とされています。
【認知的側面】
篠原 2014 :パチスロ訓練による中高年の認知機能向上 – 篠原菊紀らは、中高年者に4週間のパチスロ(スロットマシン)練習を課し、前頭葉・頭頂葉の脳活動の活性化と認知機能の改善を確認しました。ストレス下で活動しやすい右前頭部の活動低下も観察され、低ストレスで脳を鍛える可能性が示唆されていますprovanet.co.jp
Sobel 2001:ビンゴゲームとアルツハイマー患者の認知機能 – Sobelはアルツハイマー病患者を対象に、ビンゴ遊びによる認知刺激効果を検証しました。その結果、ビンゴによる認知的刺激によってBoston Naming Test(呼称課題)や単語リコール課題の成績が有意に向上し、一方で同時間の身体活動では有意な改善がみられませんでしたpubmed.ncbi.nlm.nih.gov。シンプルなゲームであるビンゴがアルツハイマー患者の日常管理に有益となる可能性が示されていますpubmed.ncbi.nlm.nih.gov。
Robeles 2019:認知症高齢者に対するビンゴ介入の効果 – フィリピンのRoblesらは軽度認知症の高齢者15名を対象に7週間のビンゴ介入を実施し、介入前後で認知機能を評価しました。その結果、記憶・思考力・見当識・言語・指示理解といった領域で有意な向上がみられ、継続的なビンゴ遊びはこれら認知機能の改善に効果的でしたstti.confex.comstti.confex.com。ビンゴは参加者に大きな楽しみと交流促進といった心理社会的効果も確認された。施設でのレクリエーション活動として導入が推奨される。stti.confex.com。
Zhu 2024:麻雀ゲームと高齢者の認知機能維持 – Zhuらは、中国の高齢者7,500名超を10年間追跡し、麻雀を定期的に遊ぶ人ほど認知機能検査(MMSE)スコアが高く、年齢による認知低下の進行が緩やかであることを発見しましたopus.lib.uts.edu.auopus.lib.uts.edu.au。麻雀プレイ頻度の低下はMMSEスコア低下と有意に関連し、逆に高頻度で麻雀を楽しむ高齢者は認知機能の維持・向上に寄与する可能性が示されていますopus.lib.uts.edu.auopus.lib.uts.edu.au。
Tse 2024:麻雀ゲームの認知・心理効果に関するレビュー – Tseらは東西の研究53件を包括検討し、麻雀遊技が高齢者にもたらす認知・心理面の影響を整理しました。その結果、観察研究では麻雀経験が豊富なほど認知機能・心理機能・日常動作能力が良好である傾向が示されましたpubmed.ncbi.nlm.nih.gov。さらに介入研究から、定期的な麻雀遊技は全般的な認知能力や短期記憶を高め、うつ症状を軽減しうることが報告されていますpubmed.ncbi.nlm.nih.gov。以上より、麻雀は高齢者の認知症予防や気分改善に有望なレクリエーションとなり得ると結論づけています。
Zhang 2020:軽度認知障害高齢者への麻雀トレーニング – Zhangらは軽度認知障害(MCI)の高齢者56名を対象に、週3回・計12週間の麻雀プログラムを実施しました。介入群は対照群と比較して実行機能(MoCA-Bスコア)や注意力テスト(STT)、日常生活動作(FAQ)に有意な改善を示しpubmed.ncbi.nlm.nih.gov、麻雀訓練によってMCI高齢者の認知低下進行を遅らせ得ることが示唆されましたpubmed.ncbi.nlm.nih.gov。麻雀は安価で手軽な認知レクリエーションであり、脳外傷後の認知リハビリなどへの応用可能性も論じられています。
Verghese 2003:趣味的ギャンブルと認知症リスク低減 – Vergheseらの前向き研究では、読書やボードゲーム(トランプ等)ギャンブル性を含むボードゲームといった知的レジャー活動への定期的参加が高齢者の認知症発症リスクを有意に低下させることが示されましたsemanticscholar.org。週1回以上ゲームを楽しむグループは、何もしないグループに比べ認知症発症率が低く、知的な遊戯による脳の刺激が予防に繋がると考えられますsemanticscholar.org。この研究はギャンブル性のあるゲームも含め、知的娯楽が認知症リスクを下げ得ることを示唆した代表的な報告です。
Akbaraly 2009:積極的な外出遊戯と認知症予防 – Akbaralyらのフランス「3都市研究」では、自宅に閉じこもらず能動的なレジャー(例:麻雀やカードゲーム、外出しての趣味)に積極的な高齢者ほどアルツハイマー型認知症の発症率が低いことが報告されました。日々内容が変わる刺激的な遊びは有酸素運動以上にアミロイドβによる記憶障害を抑制しうる可能性も動物実験で示されており、ワクワクするギャンブルゲームの適度な刺激が脳の健康維持に役立つメカニズムが示唆されています。https://www.neurology.org/doi/abs/10.1212/wnl.0b013e3181b7849b